おにてん工房

大本営霧散につき已む無く転進

窒息寸前、暗黒領域

 単眼の王冠。見開いた眼から放たれる忌わしき魔力は、かつて王国イクリプスを一夜にして滅亡させた。その強大な力は、王国の消失と共に巨大な穴を残したという。この大いなる悲劇は乗り越えられ、王冠の魔力を封印、穴を塞ぐ様に建造された塔に安置された。

 その惨劇が忘れ去られた時代……。

 聖地ゼプターと呼ばれる街に到着したルース・ハーディ。そこにそびえ立っていた筈の塔は、その根元だけを残し跡形も無く消え去っていた。愕然とするルース。旅の途中のついでの寄り道。傭兵として成長したその姿を手土産に、両親を知らぬ彼に母のぬくもりを感じさせた宿屋の老婦を訪ねる筈が、彼を迎えたのは崩壊した塔を中心とした瓦礫の街だったのだ。


 立ち尽くす彼に近づく影。振り返ったルースと視線を合わせたローブ姿の老僧侶が、静かに口を開いた。その塔の地下へと続く穴の中に単眼の王冠があること、人間の創造した武器では地下に巣くう魔物を打ち倒せないこと、そして街の人々の囚われた魂を開放するには、単眼の王冠が鍵となること。

 僧侶から手渡された古びた短剣を手に、彼はため息混じりにその穴へと消えていった。


「SHADOW TOWER」(Play Station) ■ 絶望を味わえ ■
 
キングスフィールド(以下キングス)でその名を知らしめたフロムソフトウェアが作り出した、新たな可能性。

 システムはキングスのものを継承し、新たに多岐に及ぶ要素を追加。ただでさえ暗い世界観をさらに突き詰めた、息苦しい作品に仕上がっている。

 あのキングスの陰鬱な世界に輪をかけて暗くすることに成功したシャドウタワー。決定的に違う部分は、BGMがないことだろう。環境音、魔物の発する声や音、謎の呟きなどがただ響き渡るのだ。

■ 継承・発展・進化 ■

 システム以外の嬉しい継承部分は、開始早々の即死。スタート地点から振り返ると、出口が確認出来る。出れるのかと思いつつ歩み寄れば、崩壊し落盤する巨岩。退路は完全に絶たれてしまう。

 ふと足元を見下ろしてみれば、漆黒の闇が大きな口を開けている。スタート地点からこの狭い足場!踏み外せば勿論死だ。

 かくしてルースは暗黒塔の地下……シャドウタワーへの潜入を余儀なくされるのだ。意を決して奥の扉を開くと、そこは人間界孤独域。各域にはこういった名称があり、その陰湿なイメージが精神的にも圧迫してくる。

 各所にはミイラと化してしまった死体が転がり、至るところに魔物が生息する。得体の知れない敵の息遣いと自らの足音だけが響き渡る中、助けてくれる仲間はいない。自分の力だけが頼りになるこの塔では、少しの油断と判断ミスが、即命を奪うのだ。








■ 新機軸 戦った分だけ成長 ■

 成長システムもキングスのそれと違い、魔物を1体撃破する毎に能力がアップするダイレクトなもの。パラメータは多岐に渡り、装備品によっても大きく変動する。装備品を装着する箇所も非常に多い。武器・鎧・盾・篭手・具足といった基本的なものに加え指輪・魔法をそれぞれ左右の手に、アミュレット・持ち替え用の武器・盾がひとつづつ、緊急使用出来るアイテムが5つ
 盾はキングスシリーズのように防御力を上げるだけ……というわけではなく、実際に構えることが可能であり、防御手段として使用出来る。しかし盾で攻撃を受け止めたとしても、ダメージを完全に無効化出来るわけではないので、油断は禁物だ。

 全ての武具は消耗品となっており、耐久値が設けられている。この耐久値は予想以上に減りが早く、壊れてしまったら修理に大きな代償を費やすことになってしまうので、細心の注意が必要だ。
 深いシャドウタワーの中には、床が酸に満たされた地帯なども存在する。そういった場面ではあえて具足を脱ぎ、ダメージ覚悟で歩くという臨機応変さも必要とされる。もし具足を履いたまま歩こうものなら、あっというまに破損してしまう。
 知恵を振り絞り、限りあるアイテムを大事にしつつ行動しなければ、すぐに行き詰ってしまうだろう。







■ 幻の武具は奥地に ■

 キングスシリーズお馴染みのシークレットドアも健在。何気ない壁でも、奥から物音が聞こえたりしたなら積極的に調べてみるべきだ。壁が突然轟音と共に開き、道が開かれる。
 強敵が潜んでいる場合も少なくないので、開いた先への進行は慎重に行う必要がある。

 隠された扉の奥に潜むクリーチャーが、強力な武具をドロップするケースもあるので、少しでも戦況を有利にするために第6感を研ぎ澄ますのだ。


■ キングス系統最高傑作 ■

 消耗する装備品、入り組んだ複雑なレベルデザイン、強靭な魔物……救いのない絶望的な状況だからこそ、ピンチを打開出来た時の喜びも大きい。敵がドロップするアイテムを収集する楽しみもあり、レアクリーチャーを倒して図鑑を埋める要素も面白い。

 窒息しそうな閉塞感に潰されかけるゲームだが、現在の氾濫するヌルゲーに飽き飽きしている方は、是非このシャドウタワーにチャレンジしてみて欲しい。見事単眼の王冠を取り返すことが出来たなら、達成感と共に不思議なエンディングを拝むことが出来るだろう。



 最後に…クリーチャーVSモードはヤバイくらいに酷い出来だ。しかし、実は別の実用性があるのである。その活用法はプレイすればすぐに解るだろう。どうしても行き詰ってしまった時は、これに頼るのもいいかもしれない…あくまで最終手段として。


#使用写真はPS2の補間処理を施しています。